TOMMY (THE WHO)

b0002910_8254195.jpgVarious Review vol. 41
「トミー」 ザ・フー
"TOMMY" THE WHO

1969年発表作品
MCA
'60年代後半、当時のロック・アーティストの中で、ひとつのレコードの中で物語を綴ったり、架空のショウを音盤の上で演じて聴かせたりする手法が登場した。
広くは「コンセプト・アルバム」などという名称で呼ばれたりするこの手法は、のちに'70年代のプログレッシヴ・ロックや、HR/HMのアーティストたちによって多用され、ヴォリュームたっぷりの2枚組に深遠なメッセージを託したりするような「大作主義」の種をまいた。
音、歌詞、ジャケットを統一したテーマの下に作成し、ひとつのコンセプトを提示して見せた最初の成功例は、やはり'67年に発表されたビートルズ"Sgt.PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND"だと言ったとしてもさほど異論はないだろう。
(この作品は、ペパー軍曹の専属バンドの架空のショウをそのままライヴとして音盤に刻んだというコンセプトだったが、歌詞には物語性はなく、むしろ凄まじい音の実験の成果を世に問うた作品であった。)
ザ・フー(ピート・タウンゼンド)はこの手法に「ロック・オペラ」という新たな概念を持ち込み、盲聾唖の三重苦を背負い込んだ少年トミーがピンボールの才能に目覚めてピンボールのチャンピオンになり、ついには新興宗教の教祖にまで上り詰めるものの信者の謀反に遭い転落するという重厚な物語を、そのままレコードの溝に刻むという壮大な実験に出た。

ザ・フーというバンドはその出自からして独特の存在である。
ピート・ミーデンの手によってエセ・モッズグループに仕立て上げられ、自分たちの本当の姿とは関係なく、初期の彼らはひたすらモッズ賛歌を演奏した。
ひと足先に大物になっていたビートルズローリング・ストーンズが、自分たちのルーツとなる黒人音楽R&RR&B)への深い愛情をたびたびそのレコードの上で表現してきたのに対し、ザ・フー、というよりピート・タウンゼンドという「作家」の作品には、彼らの時代のロック・ミュージシャンが必ず見せてきたそれらの音楽からの影響がほとんど感じられない。
そういった自分たちの出自を意識的に隠そうとしているかのようにも思えるほど、ピート・タウンゼンドはひたすらオリジナリティを追求し、先例のない表現手法を使うことにこだわっていた。
そんな彼らが'69年に発表した"TOMMY"の評価は今でもいくつかに分かれるようで、画期的な表現手法だと絶賛する声もあれば、難解さに苦言を呈する人々も少なからずいたようだ。
またあくまでも好みの問題だが、純粋にサウンド面での実験が少ないことを物足りないとする意見もある。(プログレ・ファン等に多い意見らしい)




オペラはもともと舞台で演じられるために作られた音楽であり、登場人物が台詞を歌に託して披露し、観客は舞台、衣装、その役者の表情などを総合的に観て物語の進行を読んでいくものである。
そのオペラの手法をそのままレコードに刻んだ本作は、個人的には極めて難解な作品だ。
はじめてこのアルバムを通して聴いた時には、サウンドの統一感はともかく、この台詞の継接ぎみたいな歌詞はナニがどうなっているんだろう、とずいぶんと悩んだりしたものだ。
歌はすべて登場人物の台詞であり、ストーリーテリング(いわゆる「語り部」)の部分がまったくないので、訳詩を読みながら聴いても実に展開が分かりづらい。
しばらくしてから、何かの本であらあらのストーリーを解説してあるのを読んでやっと全体像が見えてきたくらいである。
このストーリーは、のちに奇才ケン・ラッセルの手により'75年に映画化され(出演はアン・マーグレットオリヴァー・リードエルトン・ジョンエリック・クラプトンティナ・ターナー、そして主役のトミーを演じたロジャー・ダルドリーはじめザ・フーのメンバー自身ほか)、多数の豪華ゲスト・ミュージシャンの歌、演奏を収めたサウンド・トラックも発表されたが、映画ではいくつかの曲が追加されてより親切な展開になっているとはいえ、サウンド・トラックだけ聴いてもやはり難解であることに変わりはない。

"Sgt.PEPPER'S~"が、1967年に実現し得る最高の音の実験の成果であったのに対し、"TOMMY"は、少なくとも「音」の面で実験的な要素は少なく、ピート・タウンゼンドのアコースティック・ギターとピアノをサウンドの軸にすえたオーソドックスなロック・サウンドで組み立てられている。
本作のタウンゼンドのギター・プレイは、やわらかい、しかしそれでいてスピーディなアコースティックのストロークを中心にしており、次回作"LIVE AT LEEDS""WHO'S NEXT"で聴かせる、荒々しいエレクトリック・ギターのプレイと見事な対比を聴かせる、彼のもうひとつの真骨頂である。
いつもどおり数曲でリード・ヴォーカルもとっており、映画ではティナ・ターナーが歌った"Acid Queen"は彼の独特の歌い声に引き込まれる作品だ。
ロジャー・ダルドリーのヴォーカルはまだやや頼りない印象を与えるものの、タウンゼンドから託された難しい仕事を見事にやり切った。
"LEEDS"、"NEXT"の制作を経てスーパーヴォーカリストとなったダルドリーだが、本作の段階ですでにその才能は芽吹いていたのだ。
ジョン・エントウィッスルキース・ムーンの超強力リズム・セクションはもはや手の付けようのない暴れぶりで、構築美が主眼の本作においても、聴くものの意識をビートに釘付けにする凄まじいプレイを展開する。

ザ・フーは一般には「破壊的」なイメージで捉えられているバンドだと思う。
ウッドストックをはじめとする伝説的なライヴでの暴れぶりが彼らの代名詞となり、「ゴッドファーザー・オブ・パンク」などという称号も得た。
しかしレコードにおける彼らは、ピート・タウンゼンドの内省的で知的な作品を表現するために、非常に緻密でセンシティブなプレイを聴かせる。
この作品を発表した後も、壮大なコンセプト作品"LIFE HOUSE"を企画したり(頓挫して"NEXT"として発表)、こちらも映画化された2枚組のコンセプト・アルバム"QUADROPHENIA"「四重人格」を発表したり、タウンゼンドの知的な構築世界は他に類を見ない独自の世界だ。
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by FHIROSE2 | 2004-10-24 09:14 | ひろぽん's Music Station


1960年代半ばよりちょっと後の生まれ。40ウン年間に溜めこんだ「なにか」を吐きだす場。


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